41歳、黄桃記念日

某月某日。

ちゃーくんのお父さんはどんな犬でしたか

膝の上の犬を撫でながら『ミュージックフェア』を見ていた。父の日に聴きたい名曲特集で、さだまさしが『関白宣言』を歌っていた。古臭いなんてたまに言われるけれど、不器用だけど深い愛を感じる好きな曲。私は台所でスマホをいじっている夫に話しかけていた。

「私、さだまさしのコンサート行ってみたいんだよねー」
「……」

夫は何も言わない。さだまさしが好きで、さだまさしのコンサートに行きたいということは、以前から、何度も夫に伝えているので別になんとも思わないのだろう。

「私は『関白宣言』の歌詞、好きだなー」
「……」
「『関白宣言』みたいに、俺の愛する女は生涯お前ひとり、とか言われてみたいなー」
「……」

うちの夫は、きっと一生「俺の愛する女は生涯お前ひとり」だなんて言ってくれないだろう。そんなのわかっているが、笑いもしないし、つっつこみもしない。少しでも返事をしてくれれば良いのに、私の話は、そんなに面白くないのかと、だんだん腹が立ってきた。

「ねえ、ちょっと聞いているの?」
「え、なに?なんか言った?イヤホンをしているから聞こえなかった」
「さっきから話しかけてるのに」
「犬と会話しているのかと思った」
「別にたいした話じゃないから…」

夫に話しかけるのをやめて、今度は膝の上の犬、ちゃちゃ丸に話しかけた。

「ちゃーくん、明日は父の日ですねえ」

犬は人が話しかけている時に、スマホなんかいじったりしない。大きな目で私の顔を見ながら、ものすごく真剣な表情で私の話を聞いている。

「ちゃーくんのお父さんは、どんな犬でしたか」
「ぼくの父は酒飲みでした」

犬に返事など求めていないのに、夫が勝手なアテレコをするので笑ってしまった。犬は嬉しそうに、夫婦の会話を聞いていた。