40歳の寄り道

某月某日。

芝刈り機か、ノートパソコンか

12月某日、夫宛にAmazonから大きな荷物が届いた。

重くて大きな四角い段ボール箱に「精密機器 取扱注意」と書かれたシールが貼られている。夫は何を買ったのだろう。しばらく考え、「ノートパソコンじゃないか」という答えに辿り着いた。息子がゲーミングPCを欲しがっていて、夫も「今使っているパソコンが、そろそろ寿命だから考えるかー」なんてことを言っていた。

仕事中の夫に「何買ったのさ?」とLINEしてみる。すると「芝刈り機じゃね?」という謎の返事が返ってきた。確かに芝刈り機も欲しいが、何かを誤魔化しているのが短い文章から伝わってくる。箱を持ち上げてみるが、芝刈り機ではないと思う。箱の下の方に重心がある。芝刈り機だったら、持ち上げたら片腕に負荷がかかるんじゃないか。そもそもこの箱に芝刈り機が入るのか。うん、これはノートパソコンだ、ノートパソコンに違いない。

夫、帰宅。

夫がニヤニヤしながら箱を開ける。

ほら、やっぱり芝刈り機じゃなかった。ノートパソコンだ。ゲーミングPCだ。

夫がノートパソコンの電源を入れると、キーボードがいきなり七色に光り驚いて笑った。

「ゲーミングPCってそういうもんだよ」

と夫が言った。お祭りで売ってたサイリウムのブレスレットみたい。花火大会とか、特別な日がより特別な日になるようで、あれを身につけている人がすごく羨ましかった。この光る演出に意味はないのかもしれない。ただ、パソコンを開くという行為が特別なものになるような気がした。

しかし私はというと、新しいものに対する抵抗感と、何か作業をするにはiPadで十分だという理由で、今日まで触らなかった。妻に内緒でこんなに高級なものを買いやがって、しかもOffice搭載してないじゃないか!私は使わないからな!

そんな意地を張り続けていたある日

「書類と資料を作ってください」

と、とある方からお願いされた。最近、仕事がなかったので、自分でもすっかり忘れていたが、私は子ども会の役員だった。さすがにこれはiPadだと作業がしにくく、子ども会から預かったUSBも読み込めない。また、今まで使っていたパソコンは起動が遅すぎたり作業中に止まったり落ちたりと不具合が多く、仕方なく新しいパソコンを使うことにした。

初めて触るWindows11のフィーリングに慣れなかった。何かが大きく異なるわけではないけれど、今まで当たり前にできていたことに、「これどうしたらいいの?」と、一瞬の戸惑いを感じるような。なにかひとつ動作をするたびに文句ばかりが口から出て来て、「あ、今の自分みっともないな」と反省した。WindowsXPの時代に、パソコン初心者講座のアシスタントのバイトをしていた私が、パソコン初心者になってしまった感じで情けない。新しいものへの抵抗感は、「わからないことが恥ずかしい」という気持ちが私の根底にあるからなのではないか。わからないことは誰かに聞いたり、自分で調べたりしながら、前向きに新しいものと向き合えたら…と思った。

夫の力も借り、なんとか頼まれていた作業を終わらせることができた。今まで抵抗感があった新しいパソコンにちょっとだけ愛着が湧いた。ゲーミングノートPCなのだし、子ども会の書類や資料作りだけで使うのは勿体無い。Steamでゲームでもやってみようか。ペルソナシリーズとかタクティクスオウガとかやりたい。きっと綺麗な画面でプレイできるだろう。