40歳の寄り道

某月某日。

7/7 上半身だけ脱ぐ

午前5時20分の政見放送を見ながら、夫とべらべら喋っていたはずなのに、気がついたら夫がいなくなっていた。私の知らない間に出勤してしまったようだ。「いってきます」を聞いた覚えもなければ「いってらっしゃい」を言った覚えもない。玄関の音も車の音も聞こえなかった。犬も何事もなかったかのように丸くなって寝ている。テレビの中では、政治家たちがさまざまなパフォーマンスをしているが、ひとりで見る政見放送はとてもつまらない。

やがて息子が起きてきて、朝食を食べて支度をして学校へ行った。…と思ったら、ダッシュで戻ってきた。

「今日、水泳あるんだった。水着用意して!体温カードに印鑑押して!」

今日もバタバタとした朝。のんびり屋の自分が不思議なくらいテキパキと動き、水着やタオル、水泳帽を用意して、体温カードに印鑑を押した。 そして再び学校に行くのを見送った。

去勢手術から10日経った犬は、術後服を上半身だけ脱ぐことを覚えた。物陰から、術後服を上半身だけ脱いで出てきた姿が、なんだかサウナから上がった若い殿方みたいで、笑ってしまった。

「あらあら脱げてしまったのね、また着ようね」

と、腕を通して上げると、体を床にごろごろと擦り付け、前足と口を巧みに使い、着せてあげたばかりの術後服を脱ぎはじめた。再び着せてあげたら、また同じことを繰り返した。噛みつき防止スプレーを服に吹きかけた。最初は嫌がったが、すぐに効果がなくなってしまう。何度も繰り返すので、面倒臭くなり、相手をするのをやめたら、上半身だけ脱げた状態で寝てしまった。忘れた頃に着せてあげた。背中のマジックテープはまだ剥がせないみたい。

術後服が脱げるまであと4日。砂埃で汚れ、噛んで穴がところどころ空きボロボロになってきた。着せて1週間くらいは、うちの犬は服を全然嫌がらなくて優秀だと思っていたが、全くそんなことはなかった。いつもどおりの犬だった。