40歳の寄り道

某月某日。

10/3 腹式呼吸

『ちむどんどん』は、割と好きなドラマだった。このドラマに関しては、広いインターネット上のどこを見てもネガティブな意見が目立っていたが、私はというと、ドラマならではの偶然や、登場人物のツッコミだらけの言動も最後まで楽しんで見ていた。主人公、暢子を取り巻く登場人物たちの心境の変化や、全く関係のなさそうな登場人物同士がどう繋がっていくか…ということも気になった。途中で見るのをやめた朝ドラがたくさんある私が、毎日、最後まで見ることができたのだから、周りの意見に流されず、「おもしろかった」と大きな声で言いたい。

朝、犬の散歩中、どうでもいいことばかりで私の頭の中はいっぱい。朝のドラマのことや、今日のごはんのこと、やりたいゲーム、読みたい漫画…。そんな私の思考回路がなぜな変な方向に行ってしまい、気がつくと過去の失敗とか、トラウマとか、ネガティブなことばかりを考えてしまっていた。胸が苦しくなって、いつもは1時間くらい歩いているが、今日は45分くらいで切り上げた。帰宅後、救心を飲んで布団の上に横になった。救心のおかげか、午後は楽しく犬と歩くことができた。尾を振りながら歩く犬と何度もアイコンタクトを取り、幸せな時間を過ごすことができた。

夜、寝ようとすると夫がちょっかいを出してくる。眠れないらしい。夫のパジャマから、甘酸っぱいラズベリーのような匂いがした。我が家で使っている柔軟剤ではない匂い。この匂い好きじゃない。夫は最近、義祖母の葬儀のため数日間実家に帰っていた。だからきっと夫の実家で使っている柔軟剤の匂いだろうが、

「他の女の香水の匂いがする」

なんて、ちょっと意地悪なことを言ってみた。

「女は女でも母親だよ」

と夫が言う。

「わかってた」

そう言って、ベタベタと触ってくる夫を振り払って寝ようとする。目を閉じて、ゆっくりと鼻から息を吸い、お腹を凹ませながらゆっくり口から息を吐く。腹式呼吸だ。これを繰り返すとスッと眠りにつくことができる。眠るための儀式を行っていると夫が耳元で

「ケツ式呼吸」

と囁いた。

「なんだよそれ」

「おならのこと」

「出すことはできても吸えないじゃん」

「やろうと思えばできるんじゃね」

「できるか。人が真剣に寝ようとしている時に変なこと言うなよ」

「だって変なこと言わないと、寝ちゃうじゃん」

布団の中で馬鹿なことを言い争っているうちに、気がついたら私も夫も寝てしまっていた。夫のパジャマのラズベリーのような、私の好きじゃないはずの香りがなんだか心地よかった。